2008年度作品。日本=オランダ=香港映画。
東京の線路沿いの小さなマイホームで暮らす四人家族。リストラされたことを家族に言えない父、ドーナツを作っても食べてもらえない母、アメリカ軍に入隊する兄、こっそりピアノを習ってる小学六年生の弟。何もおかしいものなんてなかったはずなのに、気づいたら家族みんながバラバラになっていた。
監督は「CURE」の黒沢清。
出演は「ゆれる」の香川照之。「空中庭園」の小泉今日子 ら。
現代的なテーマというべきか、この映画に登場する家族の心はそれぞれバラバラで、別の方向を向いている。
父は家父長的な強い父親を演じようとし(しかしクビになっている時点でその行動は破綻している)、母は自分の役割を果たしながらも孤独を覚え、子どもたちは自分の関心の持つものにばかり興味を向けて家族から遠ざかりたいと思っている節すらある。
その様がいくらか黒い笑いを交えて描かれている点が興味深い。
彼らの状況を一言で説明するなら閉塞感だろう。仕事を得られない状況や、家庭というせまい環境の中に埋もれてしまっている状況などから、必死で逃れようとしているが、うまくいかない。
一番近しい家族とは、互いに情報を開示しないために、相手のことを慮ることもできず、すれちがいばかり起きている。そこには出口がない。
人間と人間が関わり合っていくことの難しさをそこから考えさせられるし、近しい者同士なら、その難しさはなおさら強くなるのだろうな、とつくづく思い知らされる。
だがバラバラの家族であっても、彼らの帰る場所は結局のところ、家庭の中にしかないところがおもしろい。
それは決して救いではなく、とりあえず、仕方ないから帰ってきたという雰囲気すらある。出口を求めているが、出口がないから戻るだけの仮の宿、ってな感じだ。
その安易に家庭を是、としないところが個人的には良かったと思う。
と誉めているが、この映画には欠点もないわけじゃない。
アメリカ派兵のときのインタビューはどうも違和感があるし、子どもの釈放で身元引受人がいないのも変だ。車に轢かれて無傷ってのも嘘っぽいし、ほかにもやりすぎだろう、と感じるところはある。
だがトータルで見れば、その欠点もまだ許容範囲かもしれない。
言いたい不満はあれど、なかなかの佳作である。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
製作者・出演者の関連作品感想
・黒沢清監督作
「叫」
・香川照之出演作
「キサラギ」
「嫌われ松子の一生」
「ゲド戦記」
「ザ・マジックアワー」
「14歳」
「憑神」
「20世紀少年」
「バッシング」
「花よりもなほ」
「HERO」
「ゆれる」
・小泉今日子出演作
「空中庭園」
「転々」
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